「一煎目は捨てるの?」にお答えします
2007年10月26日
中国茶評論家・工藤佳治
――おいしく飲むコツは、形式にこだわらないこと
「中国茶をいれる時、一煎目は捨てるのですか?」
先日ある協会の講演で、久しぶりにこの質問を受けた。以前よりは少なくなったが、中国茶のいれ方についてよくある質問である。
この質問、中国では皆無に近い。理由は、簡単である。一煎目を捨てるようないれ方、飲み方をほとんどしていないので、質問する必要がないからだ。
日本で質問が出る理由に、テレビとか雑誌、あるいは中国茶を教える先生が、中国茶をいれる時、茶葉を入れ、お湯を入れたあと、「一煎目は捨てま す」ということが紹介されているからだ。ほとんどの場合、このいれ方は、以前にも書いた「茶藝」という「中国式茶道」の紹介で行われている。小さな急須を 使い、小さな杯で飲む、中国茶ではお馴染みのいれ方、飲み方である。茶藝は、広東省や福建省、台湾を中心に行われているいれ方、飲み方である「工夫茶」を 基礎に、様式化されたもので、ここ15年くらいの歴史である。
中国での日常のいれ方、飲み方は、ほとんどがコップやマグカップのような器に茶葉を入れ、お湯を入れてしばらく待って、そこから直接飲むのが主流である。お茶が濃くなれば、そこにまたお湯を足し、自分の好みの濃さにして飲む。
このやり方では、一煎目を捨てるなど、必要もないし、出来ない。彼らの頭の中に「一煎目を捨てる」などの考えもないはずだ。
実は、日常飲んでいるお茶の種類に影響されている。中国のほとんどの地域では、「緑茶」が中心に飲まれている。北部は、「茉莉花茶」(ジャスミン茶)。広東省、福建省、台湾では「烏龍茶」が中心だ。
緑茶は、何と言っても最初の香りこそが大事。その「魅力」の部分を捨てるなどということは、論外である。「おいしい」ところ、「楽しむ」ところは捨てない。
私たちも日本茶を飲むとき、当然のこととして一煎目は捨てない。
ところが、「茶藝」の基礎となる「工夫茶」は、「烏龍茶」を飲む地域の文化である。一煎目を捨てる光景を今でも見ることがある。また、香港で日常 飲まれている「プーアル茶」も、大きなポットに少量の茶葉を入れ、少しだけお湯を注いで、それをまず捨てる。そのあとお湯をいっぱいに入れ、飲む。
プーアル茶は、一煎目をなぜ捨てるのか? プーアル茶は、製造の工程や、長期間ねかせて熟成させる工程など、放置されることがある。その間に、ゴ ミなどが付くことがあるので、それを洗い流すためである。また、少し「カビ臭さ」もあるので、それを多少和らげる意味もあるような気もする。
工夫茶で「烏龍茶」をいれる時に一煎目を捨てる理由は、いろいろの説明がされているが、古くは製造工程上のゴミを洗うなどの目的があったという。 現在はそれほど汚い環境の中で製造されていることもなく、必要性はないといってよい。また、烏龍茶の茶葉の中には、強く揉んで小さな球形にまで丸められて いるお茶もある。このような茶葉の場合、お湯で刺激を与え、早く開かせ抽出を早める効果を目的とする、という説明もある。
いずれにしても、「茶藝」「工夫茶」で一煎目を捨てるのは、現在では形式的な所作である。お茶をおいしく飲もうとした場合、逆に「おいしい」部分を捨ててしまうことにもなる。香りが立つ、発酵度が浅い烏龍茶も増えている。
結論を言えば、プーアル茶など「陳年」(ねかせるタイプ)のお茶のみ「一煎目を捨てる」ということになる。
日常飲むお茶は、「おいしく」が一番。形式にこだわる必要はない。中国茶も例外ではない。
次回は、「過剰包装が目立つ。味を忘れないで…」(予定)です。
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