中国では最近紅茶がブームになっています。何故なら、紅茶は発酵させるためカフェインが少なく、体に優しいからだと思います。また、体を温める効
能があることから、特に女性には人気があります。紅茶の発祥は中国の福建省ですが、福建省の正山小種(ラプサン・スーチョン)は日本でもよく知られていま
す。
それにしても、福建省には良質なお茶が実に多いと先日改めて感じました。それは、自分が知らなかった「坦洋工夫」という福建省の紅茶を取
材するチャンスを与えられた時でした。「坦洋工夫」紅茶は、中国ではあまり知られていないのですが、実は、早くも100年前にはすでに世界的に名前が知ら
れていました。坦は「つちへん」に「元旦」の「旦」、洋は太平洋の洋、工夫は工夫すると書きますが、この紅茶は1915年にパナマ万国博覧会に出展され、
金賞を得たことで世界に名前が知れ渡りました。そしてイギリス王室の御用達にもなり、19世紀後半から20世紀前半にかけての50年余りの間に毎年500
トンを輸出するまでになりました。主な輸出先はイギリスのほかロシアや日本などでした。
「坦洋工夫」紅茶、名前はやや硬いイメージですが、どんなものなのか、ぜひ飲んでみたいなぁと思いました。先月末、CRIの取材班とともに高速列車で福建省へ向かいました。
「坦洋工夫」紅茶の原産地は福建省北東部にある福安市、北京から高速列車で9時間、初日は1日列車の中で過ごしました。しかし、列車の中
でも退屈しません。北京と福建省を往復する列車ということで、福建省の銘茶を車内で飲むことができるからです。そして、なんと「坦洋工夫」紅茶の最高級の
ものもありました。「酔龍顔」、「酔う」に「龍」に「顔」と書きますが、淹れたお茶はあでやかな赤みをおびた美しい色をしていて、見た目だけでも非常に魅
力的でした。口の中に少し含むと、甘味がふわーっと広がるとともに甘い花の香りが空中に漂っていました。この香りと味は自分の記憶の中になかったため、非
常に新鮮で程よく刺激を受けました。
「坦洋工夫」紅茶が開発されたのは19世紀半ばのことです。使われた茶葉は地元独特の"坦洋菜茶"という品種でした。その後、大量に海
外、特にイギリスやロシアなどに輸出され、ブームになりました。しかし、1930年代、国際情勢の変化により、輸出を主力としていた「坦洋工夫」の生産が
衰え、その名もいつしか忘れられていきました。しかし、近年になって、紅茶がブームになるにつれて、"坦洋工夫"は再び脚光を浴びるようになったのです。
福安市に到着した翌日、山あいにある「平月茶業」というお茶の生産工場を訪れました。庭では摘み取ったばかりの茶葉の萎凋(いちょう、茶葉を日に
当てて水分を飛ばす)という作業が行われていました。技術者の郭聡さんによれば、新茶の摘み取りは3月半ばから5月半ばまでおよそ2カ月間続くということ
です。
郭聡さん:茶摘みの時期が終わると、精製の段階に入ります。各種の茶葉をそれぞれ精製した後、品質の審査が行われます。各銘柄のお茶には
それぞれ特色ある香りと味があるため、安定した品質のお茶を作るのに、違う品種の茶葉を組み合わせます。しかし、精製は人の手で行われるため、毎年、完成
品には若干品質の差が生じます。そのうえ気候の差もあるので、品質審査は極めて重要です。ですから、一年中仕事がありますよ。
「平月茶業」という会社は数種類の茶葉を使っていくつかの銘柄を開発しています。高速列車で飲んだあの甘く香り豊かな"酔龍顔"はこの会
社の最高級の銘柄の一つです。その最高級の"酔龍顔"の原料となる茶葉を目にすることができました。なんと樹齢300年とか100年の極めて貴重な茶樹か
ら摘み取った茶葉を使用しているということです。このような木は数十本しかなく、標高1000メートルの山の上にあります。
嬉しいことに、そこを見学させてもらうことができました。樹齢100年を超えるお茶の樹々は、茎に白い霜みたいなものがついていて、いか
にも歴史を感じさせるものでした。周りは一面緑に覆われ、全く汚染のない環境で育っています。社長さんのご好意で、古木の茶葉をひと握り摘み取り、記念に
北京に持ち帰ることにしました。
社長の呉平月さん:いいお茶を作るには、気候や空気、環境、そして、茶の木の栽培に対する研究はもちろん、摘み取る人の気分にも注意しな
くてはいけません。茶摘み、加工、ブレンド、そして飲む時にお茶を淹れる人の気分など、全て関係してきます。全てのプロセスがかかわっているため、私たち
は心を込めてお茶を作ることを提唱しています。
北京に戻って、あの貴重な老木から摘み取ったひと握りの茶葉を鍋で炒ってごく簡単に殺青しお茶を作ってみました。出来上がったのは、所々
が黒くなったりして、見た目は決して綺麗とは言えませんでしたが、淹れてみると、ふわっと漂ってきた香りは100年の茶樹に相応しい豊かなものでした。
(文・写真 王秀閣)
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