2010年12月11日 星期六

茶の品種は110種類!

ステファン・ダントンさんの日本茶よもやま話 お「茶」べり時間 Vol.08 新時代のブランド茶到来(前編)


静岡県農林技術研究所・茶業研究センター

米なら「コシヒカリ」や「秋田こまち」、リンゴなら「ふじ」や「紅玉」という選び方がある。日本茶を“品種”で選ぶことがほとんどないのはなぜだろう。ダントンさんに聞いてみた。

「売られている日本茶はほとんどが加工段階でブレンドされてるから、選びようがないんだ。でも、まだ認知度は低いけど、最近は単一品種で作った日本茶も見かけるようになってきてるんだよ」

品種の話を聞きたいなら、とダントンさんはある人を紹介してくれた。

「日本中の茶の品種に精通してる“茶の品種博士”だよ」

私たちの知らないおいしい品種の茶があるかもしれない。

さっそく、静岡県農林技術研究所・茶業研究センターの中村順行(なかむら・よりゆき)センター長を訪ねた。

茶の品種は110種類!

車を走らせると、道路沿いには「茶」ののぼりがいくつもはためき、かまぼこ形に刈り込まれた茶の木が途切れなく続く。静岡県菊川市を含むこのあたり 一帯は牧ノ原台地と呼ばれ、明治維新後から茶畑の開墾が始まった土地。今では全国で一、二を争う茶の一大産地だ。茶業研究センターは広大な試験用茶畑の中 にあった。迎えてくれた中村センター長は、茶の品種研究に携わって30年というエキスパートだ。自身でも7~8品種ほどの開発にかかわってきた。

「あまり知られていませんが、茶の品種は日本国内で現在約110種あるんです。それぞれに適性があって、例えば紅茶用の品種は発酵したときに香り高 い品種、釜炒(かまい)り茶用には炒(い)ってもしっかりしている葉の厚い品種という風に、茶の種類ごとに品種が開発されるんです」

お茶べり時間・こぼれ話
「あさつゆ種」と「やぶきた種」
現在登録されている日本の緑茶品種のほとんどは、「あさつゆ種」か「やぶきた種」にたどりつくのだそう。「あさつゆ 種」は京都の宇治茶を祖先にした在来種の日本型で、天然の玉露と表現されるまろやかで包み込むような味と香りが特徴。一方「やぶきた種」は、やぶきたに由 来するもので、シャープなすっきりしたうまみを持つ。「さえみどり」という九州で多く栽培される茶は、「あさつゆ」と「やぶきた」を親に持ついいとこどり の品種なのだそう。

しかしこれだけの品種があるのに、消費者がそのほとんどを知らないというのは驚きだ。

「ダントンさんがおっしゃる通り、茶はブレンドして製品になることがほとんどだからです。ひとつには単一品種ではまろやかな味や香りが出ないから。もうひとつは年間を通して安定した味の茶を流通させるためなんです」

ブランド茶の王様「やぶきた」

中村順行センター長

「やぶきた」というお茶の名前を聞いたことがあるでしょう、と、中村センター長が品種名を挙げた。煎茶(せんちゃ)用の品種だ。

「この“やぶきた”というのが、一般的に知られているほとんど唯一の品種ではないでしょうか。知名度はもちろん、生産量でも日本 全国で生産される茶の約7割を占めているんです(静岡の場合には9割、全国では7割)。年配の方なら、今も“やぶきた茶”と品種を指定して買う方もいます ね」

日本茶専門店やスーパーの棚で、注意して見るとやぶきたと品種名を冠した煎茶を見つけることができる。

「実はこのやぶきたがこれまで日本ではほとんど唯一無二の品種によるブランド茶だったんです(茶では品種以外に地域ブランドがある)」

やぶきたっていうのはミステリアスな品種でね、と中村センター長はやぶきたの生い立ちを話し始めた。

素性知れずのブランド茶

“茶の品種博士”と呼ばれるだけあって、品種の話しなら一日中でもできるという中村順行所長

「やぶきたというのは、杉山翁が静岡県安倍郡有度村(現、静岡市駿河区)の試験園のヤブの北側で1908(明治41)年に発見されたから、やぶきたという名前がついたんですが、ひとつ不思議なことがあるんです」

日本の茶園の7割を占める「やぶきた」は、実は素性のはっきりしない品種なのだという。

「やぶきたは、他の日本の品種にはない特異的なDNAを片親に持っていることがわかったんです。当時日本の茶樹はすべて中国種に ルーツがありましたから、このDNAが日本の茶樹で見つかるのは奇妙なことなんです。どれだけ調べても今もやぶきたの素性は特定できていないんです」

従来、茶はそれぞれの地方で自生していた在来種の茶樹から作られていた。土地の気候や個体ごとのばらつきが茶の味や香りに影響するため、質の均一化や収穫量の安定は難しかった。

この問題を解決するのが「品種」の導入だ。優秀な個体を人為的に繁殖させることで、同じような質の茶を収穫できる。

一体どこからやってきたのかわからないやぶきたが、この数十年変わることなく茶のブランドとして君臨してきたのはなぜだろう。

時代の追い風に乗った「やぶきた」

「やぶきたは品質面で他を圧倒していました。これまでの茶より香りがよくて、葉が大きいために収穫量も多かったんです。さらに生育が早いため、在来種よりも一番茶を早く出荷して高値をつけられる。全国どこででも栽培可能なことも普及のスピードを加速させました」

もうひとつの理由は、当時の時代背景にあると中村所長はいう。

茶フレーズ 朝茶は福が増す
朝に茶を飲むと災難から逃れられたり、その日いいことがあったりするなどと昔から言われていることから、茶は健康によいという意味を含んでいる。同じような意味で「朝茶はその日の難逃れ」「朝茶に別れるな」ということわざもある。
茶業研究センターの試験用茶畑。茶の木には、ちょうどお茶の花が咲いていた

「ちょうどやぶきたが登場した明治後期から昭和初期は、海外への緑茶輸出量が急激に増えた時期だったんです。さらに国内でも、そ れまで白湯や番茶を飲んでいた人々が豊かになり、煎茶を買い求めるようになった。そこに新しく登場したやぶきたは、最上級の茶というイメージで認識される ようになったというわけで、まさに時代の落とし子のような品種だったんです」

1953(昭和28)年にやぶきたが農林省に品種登録されると、農協などの推奨もあり、静岡の茶農家はこぞって在来種からやぶきたへと切り替え始めた。この動きは徐々に全国の茶産地でも見られるようになる。

それ以来、いくつもの品種が開発されてきたが、なかなか「やぶきた」にとって代るものがないまま現在に至っている

しかし、そんな“やぶきた依存”から、時代はまた変わりつつあるのだという。

次回は新しい時代の流れにのって登場した新しいブランド茶を、中村所長にガイドしていただく。

(文・構成/野瀬奈津子)

中村順行所長の「気軽におうち楽しむお茶時間」

茶の木でベランダガーデニング

昔は家の生け垣や隣家との境界など至るところに植わっていた茶の木。本格的に茶を作るのでなければ、あまり手間のかからない育てやすい植物なのだそう。

  • 茶の種子は一般には販売されていないため、園芸店などで生育した苗を購入するのが手軽。
  • 庭先に植えられるほか、プランターでも栽培が可能。日当たりがよく、排水のよい場所が適している。根を深く張るので、十分な深さの鉢を用意しよう。
  • 4月ごろの新芽の時期には料理に、10~11月の秋には白い花も咲かせる。(茶を収穫するには3年程度かかる)


沒有留言: